1. 時代の潮流 ~ RPAというツールが担う役割
世界の産業,特に工業製品は,家内制手工業,問屋制家内工業,工場制手工業,工場制機械工業の順に,発展をしてきました。もちろん,そのすべてが工場制機械工業に置き換わったわけではありませんが,少なくとも主流が移行していき,製造の中心が工場にあることは,間違いのない事実でしょう。これは製品をつくるという業務を行う担当が,人から機械に置き換わった,ということです
そして今,同じことがオフィスワークを中心とした事務系業務に起こっています。
その実現を担うものの一つにRPAがあります。RPAは,「コンピュータ上の作業を定型化・自動化するもの」ですが,では,「RPAが,実際にできること」は,何なのでしょうか?

2. 強力であるがゆえに生まれるRPAの8つの神話
RPAにまつわる「神話」,つまり,事実として明らかになっていないものの,広く世間に流布し,場合によっては信じられている,まことしやかにささやかれていることに,次の8つがあります。

神話1
RPAは,人間のポジションをテクノロジーで置き換えるもの。そのことが,人の解雇につながっている
神話2
事務系業務に携わる方はみな,RPAに恐怖を感じている
神話3
RPAがIT部門に取って代わる
つまり,IT部門の担当は必要なくなる
神話4
RPAによって,海外に移された仕事の多くが自国に戻される
神話5
RPAは,コスト削減できるという理由のみで注目されている
神話6
すべての人間の仕事は,RPAによって取って代わられる
神話7
業務フローに組み込まれているどのような業務にでも,RPAは適用できる
神話8
事業で大きな成果をあげるためにはプロセス全体を自動化しなければならない

ここで「神話」と表現されるように,この8つの話は事実であるかのように語られることが多いものです。しかし,この8つの「神話」について,RPAの研究者でもあるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのウィルコックス教授は,51の事例及び調査結果を元に「すべて事実とは反するものだ」と語っています。

3. ナゼ「神話」が生まれるのか?
では,ナゼこのような「神話」が生まれるのでしょうか? 大きな理由として考えられるのは,RPAに関する正しい理解の不足です。そして,RPAに関する「ある出来事」が取り上げられたとき,正しい理解のないままに,その情報を受け取ってしまい,RPAに対する過剰な期待と過剰な不安を生む結果になってしまっている,ということです。

各種の報道を見てもわかるとおり,当たり前になってしまったこと,を,改めて取り上げることはめったにありません。新しいもの,新しいものへと,注目が集まるよう誘導している面があることは,否定できないでしょう。たとえば,著名人の死去はニュースになりますが,「今日も元気でした」は,ニュースとして取り上げられないでしょう。
また,情報は,他の社会情勢と結びつく,という側面があります。RPAで言えば,人手不足や働き方改革と結びつき,特に経営サイドの期待が大きくなっている面があります。
さらに,RPAのようないわば「革新的なもの」は,良い面のみが強調されるという性質があります。このことは,人というものが自分の成果を強調しがちで,あえて失敗を表に出したがらないことからも理解できるのではないでしょうか。

このように,情報は正しい理解の下に受け取る必要があり,RPAに関する情報も同様だと言えるのです。

4. RPAの導入で本当に実現できること
では,「RPAが実際にできること」はどのようなことなのでしょうか?
RPAが実際にできるのは,「人がコンピュータ上で行っているオペレーション業務を,記憶し,再現する」というたった1つのことです。実際,多くのRPAツールが,「作業内容を一つひとつ,プログラミングのように入力していく方法」の他,「人がコンピュータ上で行う作業を,録音するかのようにして記憶する」機能を持っています。そしてここで記憶したことを「再生」するかのように,コンピュータ上の作業として再現しているのです。

5.RPAの導入で,「実現できること」と「その効果」を切り分けて考える
とはいえ,このRPAの「たった一つのできること」が,大きな効果を発揮する可能性があることは疑いようのない事実です。特に,人手で大量に行われていたコンピュータ上での定型事務処理作業は,人が行うよりも正確な面があることも含め,圧倒的な効率化を実現できる可能性があります。

このことは,いわゆるメガバンク各行がRPAの導入により大幅に業務効率化できたことを考えるとわかりやすくなります。銀行業務は,人がコンピュータを使って行う定型化された業務が大量にあります。このことは,月末月初に行われる振込業務などを想像するだけでも十分理解できることでしょうし,メガバンクであれば,その量が小さな銀行よりも圧倒的に多いがために,その効果も大きいことも想像できることでしょう。

このように,RPAが「実現できること」と「その効果」とを切り分けて考えれば,RPAの本当の実力が理解できるのではないでしょうか。

つまり,RPAは,人が本来,必ずしも得意とは言えなかった単純作業を代わりに引き受けるもの,と言い換えることができ,それがどの程度効果を発揮するかは,RPAに置き換えられる定型業務の量がどの程度あるかによって変わる,ということなのです。とはいえ,RPAの導入は,どの企業にとっても,あるいは個人で事業をされている方にとっても,避けて通れないもの,あるいは,積極的に導入すべきものになるのではないかと考えられます。
冒頭,工業製品で起きたことが,オフィスワークを中心とした事務系業務に起きている,としました。ただその発展の方向は製造とは逆。むしろ,工場から問屋へ,そして,家内へ,という流れで移行していっていると言えるかもしれません。クラウドファンディングやフリマアプリ,人材マッチングなどのサービスは,いわば,問屋として成立し,その情報を握っているという見方ができます。つまり,企業から問屋へ,そして個人へと発展していく可能性があるということです。

よって,RPAの導入は,「効率」の側面というよりはむしろ,「人が得意な業務と,人が不得意な業務とに切り分けられ,人が不得意な業務をRPAが担うようになっていく」ととらえた方が,その本質を表していると言えるのです。

Categories:

Tags:

Comments are closed